February 03, 2005

「京都府・緑の公共事業アクションプラン」に参画して

西村仁志

1.はじめに
 平成14年度から京都府の「緑の公共事業アクションプラン政策検討会議」に政策立案メンバーとして参画する機会を得た。これは山田啓二知事が選挙公約として掲げていた重要テーマのひとつであり、森林環境等の保全や府内産間伐材等の利用の促進。地球温暖化対策の推進や新たな雇用創出を目指すものである。この会議はその後3年間にわたって開催され、議論を進めてきた。ここに活動実践者の立場、あるいは一府民の立場から京都府の政策立案に関わった体験を通じ、今後の政策形成や公共事業のあり方における「公共性」の問題について考えてみたい。

2.「アクションプラン」の背景について
これまでの行政計画は、策定された後にどのように施策へ反映されたかが必ずしも明確ではなく、しかも多くの計画は、実は予算・施策ができた後につくられるのが実情であった。「アクションプラン」は、オープンな議論を通して施策がどうつくられ、どのように実施されるかを府民にわかりやすく説明するための計画であり、このように開かれた政策形成をしていくことが山田知事の公約であった。
 「アクションプラン」が留意すべきポイントとして
1. 府政の解決すべき課題について、毎年の目標設定を明らかにすること。
2. 中間段階で、議会に報告したり、パブリックコメント(府民意見提出手続き)などの手法で府民に説明すること。
3. 策定した計画のうち、何が施策に反映されたかをきちんと示すこと。
4. 施策の反映状況をみながら、毎年PDCAサイクルで見直し、次年度の施策形成につなげていくこと。
 以上の4点が示されている。このような施策立案のプロセスを構築することにより、府民に開かれた府政を実現することをねらいとしているのである。

3.「緑の公共事業アクションプラン」のこれまでの経過
★平成14年度
 学識経験者(林学、植物学、都市計画などの専門家)、市民活動関係者(まちづくり、里山活動、環境教育など)、林業・建築関係者等19名の政策立案メンバーが招集され、この19名が「緑の活用」チーム「緑の整備」チームに分かれ、その後「木材利用促進検討部会」、「環境教育促進検討部会」、「森林整備(里山)検討部会」、「森林整備(文化の森)検討部会」とメンバーの関心分野でのワークショップを行うなど、7月から12月にかけて合計11回のワークショップが行われた。

施策の基本方向
・未来への贈り物としての森林を保全・整備
・森林整備等の促進を通じた新たな雇用の創出
・人と自然の共生を重視した社会資本整備の推進
を確認するとともに、
重点的な取り組み
  1.放置森林等のうち公益性の高い森林の緊急的な保全・整備
  2.京都の文化振興に貢献する「京都・文化の森」づくりの推進
  3.森林整備を通じた魅力ある雇用の場づくりの推進
  4.循環型社会実現に向けた取組の一つとしての木質資源の積極的な活用
  5.環境に対する府民の意識を高め、府民ぐるみで緑を守る仕組みづくりの推進
について、細部にわたる議論を行い、具体的施策についてアクションプランで言及した。
 そしてこのプランに基づいて、翌15年度に11億8百万円の当初予算で、次の各取組が進められた。
公益性の高い森林の緊急的な整備 計 533,100千円
森林整備による雇用の創出 計 121,500千円
木質資源の積極的な利活用 計 268,100千円
森林生態系の保全 計 185,300千円

★平成15年度
 前年度に引き続いて7回のワークショップを行って森林整備(府民参加の森づくり)、木材利用(府内産木材の利用促進)、竹資源活用(放置された竹の多様な活用)の3テーマを中心に議論を行い、また公共事業と併せて府民とともに進めていく事業(「緑の公共事業と一体的に取り組む事業」)を検討した。
現状の課題として
  1.豊かで美しい緑を保全する京都独自の仕組みが必要。
  2.森林を守り育てるために幅広い府民の参画が不可欠。
  3.持続可能な森林管理の実現には、京都の木の文化・竹の文化の振興が必要。
の3点について認識を共通にし、
3つの重点的取組み
  1.京都の豊かな緑を守る条例づくり
  2.里山の府民ぐるみでの保全・整備
  3.京都の木の文化・竹の文化の振興
を明らかにし、これらは以下のような翌16年度の当初事業予算12億3785万円として反映している。
公益性の高い森林の緊急的な整備 計 706,688千円
森林整備による新たな雇用の創出 計 78,100千円
木質資源の積極的な利活用 計 453,071千円
森林生態系の保全 計 344,589千円

★平成16年度
 「緑の公共事業」の理念を幅広い府民参加の運動へと発展させることを目指して、森林を中心に豊かな環境を府民ぐるみで守り育む取り組み(モデルフォレスト)の具体的な展開方法等を検討した。「モデルフォレスト」とは流域森林を単位として利害関係者の総参加のもとに行われるスケールの大きな地域住民参加の環境保全活動全体のことで、現在世界13カ国で取り組まれている。
 5回のワークショップは府内各地で行い、取り組みの現場の見学を行うとともに近隣の里山活動関係者や広域振興局の林業担当者も出席して、現状についての認識を深めることができた。
今後の課題として
  1.緑の公共事業を「行政中心」から「府民主体」の取組に拡げることが重要
  2.森林を「保全・整備する」から「守り活かす」取組に移行することが重要
と指摘するとともに、重点取り組みを
  1.緑を守り活かす多様な主体の連携の促進
(具体策−流域を単位とした府民と行政の協働組織づくり、様々な主体の交流と連携の促進、府民やNPO等の様々な取組の促進)
  2.府民レベルで森林資源等を利活用していくきっかけづくり
(具体策−森林・里・川を守り活かす府民の知恵の結集、行政と大学の連携による情報の効果的な発信)
として、「モデルフォレスト」の理念や取り組みを府下において展開していくことによって、「緑の公共事業」を「行政中心」から「府民主体」の取組に拡げていくことを目指していくこととしたのである。
 また今年度のアクションプランの策定にあたっては、中間案の発表と府民意見募集(パブリックコメント)も行われ、幅広く府民からの意見を反映させる手続きがとられた。

4.公共事業が「公共性」を有するために
 3年にわたる「緑の公共事業アクションプラン政策検討会議」に参画して、公共事業における「公共性」について考える重要な点が3つ示されたと感じている。

(1)多様な顔ぶれによるオープンな議論
 これが府担当者が机上だけで考える政策、施策、事業からの脱却のための最大の条件であろう。今回の政策立案メンバーには、このテーマに関係する学識経験者、事業者、市民活動関係者などが加わり、多様な観点、経験、現場認識のもとに議論し、政策検討を進めることが出来た。「現場を見たり、現場の関係者へのヒアリングも行いたい」という意見から、2年目からは現地視察と関係者へのヒアリング、会議も設定されたことも重要な要素であった。
 メンバーも途中一名が就職のため抜けた他は、事務局担当者(林務課)も含めてほぼ同じ顔ぶれで3年間一緒に議論することができ、相互理解、信頼のもとに議論と検討をすることができた。このようなことから、担当者が机上だけで考える政策、施策、事業から、より今後のあるべき姿、現場のニーズに即した公共事業への脱却がはかれたのではないかと考える。
 課題としてはこの会議に「公募委員」を位置づけることや、パブリックコメントにあたって、一般府民向けの公開検討会議やワークショップなどを行ってさらに幅広く意見を求める仕組みも組み入れて検討をすすめていくことが挙げられる。

(2)プロセスを重要視すること〜事業による受益者と公共性の問題
 府内には零細な林業家も多く、後継者や経費等の問題から間伐等の手入れが十分に出来ない民有林が増えてきている。また個々の林業家の経営を安定化させていくためには府内産木材を適正な価格で市場に出していくということが必要であろう。ところが府としてこうした支援、振興策をとることはどのような公共性をもつのかという議論が必要となってくる。つまり限られた業種や山林所有者だけに対してのメリットではないのかという意見も存在しうるからである。
 今回の「緑の公共事業アクションプラン政策検討会議」では、こうした利害関係者にだけではなく学識経験者や市民活動関係者、私のような一般府民に近い立場の人間も含めて幅広い観点からの議論を行ったために水源涵養、国土保全、木造文化財の補修用木材の産出、環境学習などの山林の多様な役割について認識したうえで、こうした支援、振興策について提案をすることができた。これがもし業界からの陳情や、有力政治家からの働きかけで実現したものであった場合には手続的な社会的合理性を欠くことになる。結果は同じであっても、今回のようなプロセスを経ていることが非常に大切ではないかと思う。

(3)市民が担う「新しい公共」へ
      〜「従来型」の公共事業の限界を超えることができる可能性
 あたりまえのことであるが公共事業には税金が投入され、その事業が終了した時点で整備は終了する。ところが今回の「緑の公共事業」における整備事業では、「森林ボランティア」をはじめ府民が関与できる領域が存在する。これは税金の投入が終了しても、そのミッションが継続する限り活動が終結することはない。「緑の公共事業アクションプラン」ではこの点に着目して「緑の公共事業」と「緑の公共事業と一体的に取り組む事業」の両方について議論し、またとくに2年目、3年目と経過するにつれて後者の議論が中心となった。ここに「従来型」の公共事業の限界を超えることができる可能性が見え、行政が担うだけではない、市民が担う「新しい公共」の姿を少し垣間見ることができたのである。公共事業が「本物の公共性」を有するための議論がするにはまだまだ府民側の力不足は否めないが、これを端緒に今後にむけての可能性が開かれていくと信じたい。

5.さいごに
 京都府の「アクションプラン」は初年度6つであったものが、3年目には19の分野に及んでおり、300名近い政策立案メンバーが会議やワークショップを重ねて政策検討を行っている。このように各分野に広がってきているのも、「アクションプラン」によって立案され実施された政策が有効であり、社会的な支持を得て、「公共性」のあるものとなってきたからに違いない。
 政策立案メンバーという立場で実際の政策形成の場面に立ち会うことができ、また大学院での研究内容と絡めて「公共性」について考えることができたことはたいへん有意義であった。

投稿者 Nishimura : February 3, 2005 02:40 PM
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