以前、西日本新聞『潮流を読む』に寄稿した「社会起業家の時代」という拙文をアップロードします。ご笑読いただければ幸いです。
去る一月十四日鹿児島市で「九州NPO事業推進交流会」が開催された。九州各地で公益事業を展開している主要なNPO(特定非営利活動法人)が集まり、市民公益活動の可能性や連携の意義について熱心に語り合った。
その中の一つ、シニアネット久留米は商店街の空き店舗を利用して高齢者向けパソコン教室を開業。“卒業生”はホームページ作成業を起こしたり、指導者として活躍している。つまり高齢者がパソコンを使いこなすことでいわゆるでデジタル・デバイドが克服されるだけでなく、新たな収入をもたらし、高齢者間のネットワークが広がっていくのだ。ちなみに代表の古賀直樹氏は米国シニアネットの理事にも選ばれている。宮崎文化本舗の活動もユニークだ。NPO映画館を経営しながら時にはこだわりの映画を上映したり、まちづくりに精を出している。
一般に「事業」を「利潤やコストを伴う物・サービスの生産や交換」と定義すると、NPO事業の特徴の第一は株式会社のように利潤を配当として分配せず、次の事業に回すことにある。従業員が報酬を受けることは何ら問題ない。第二は、福祉、環境、まちづくり等の公益を事業目的とすることだ。この公益目的のことをミッション(使命)と呼んだりする。つまりNPO事業とは行政でも企業でもない分野で財やサービスを生み出しながら公益を実現しようとする活動なのである。
わが国でもNPO法人の認証数の増加に伴い、そうした事業も拡大の一途を辿っている。「人助けをしたい、世の中をよくしたい」という市民の素朴な思いや営みが法人格を得ることによって、大きなお金や多くの人を動かせる〝事業〟へと発展することが可能となったのである。
また法人化は金融の途も開いた。先の交流会で九州労働金庫の後藤雅道氏は「NPO事業サポートローン」が新設されたことを誇らしげにアピールした。また「全国市民バンク」(東京都目黒区・片岡勝代表)は社会に役立つ事業を志す人々に信用組合と提携して開業・運転資金を貸し付けている。さらにNPO優遇税制は市民からNPOへの直接金融を可能にするものである。
しかし、NPOの事業が成功するのはそう簡単なことではない。事業費をもっぱら会費や行政等からの助成金・委託金などで賄うならまだしも、独自の事業で収入を上げるのは営利企業に勝るとも劣らぬ経営センスと技術が必要になるからである。その点参考になるのは欧米で「社会起業家」(ソーシャル・アントルプルナー)と呼ばれる人々である。昨夏、ベンガル地方からの移民が多く住むロンドンのスラム街を訪れた。そこでは彼ら社会起業家が組織したNPOが古い教会を再建し、敷地内に医療センター、生涯学習施設、公園、保育所等を運営していた。NPOが中心になって行政や企業から財源を調達し、地域を経営しているのである。収益源としてコミュニティ・レストランも併設されていた。未・低利用の資源を活用して地域福祉を実現していく彼らの手法はベンチャー企業そのものである。だからこそ、彼らの事業は「ソーシャル・ベンチャー」と呼ばれ、社会革新の原動力として高い評価を与えられているのである。英国では地域環境の保護や再生にも「グランドワーク」と呼ばれる社会起業家が数多く活躍している。
彼らの多くは高い専門能力を備えた各分野のプロでもある。行政や企業にいても相当な仕事ができる人々がNPOで公益活動に従事している。行政には縦割りの、企業には系列や業界の壁が厚く立ちはだかっている。しかし、NPOにそんな障壁は無縁であり、容易に連携してネットワークによるパワーを発揮する。ネットワークこそ社会起業家にとっての最大の武器である。いま日本にも社会起業家の時代が到来しつつある。